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田中式スピーカーBOXの製作秘話

設計スタンス

私の設計したネッシーは、前後の長さ比が11:18、割り切れない比率になってます。箱の全ての部分の寸法比を、このように単純な整数比にならないように詰めて行けば良いんです。

何度か試作しているうちに、楽器のようにあらゆる周波数に満遍なく共振し、しかも鋭い共振の出ない箱が作れます。そういう箱が出来ると、吸音材を使うメリットはなくなります。

長岡氏設計のネッシー、前後の長さ比が1:2、長岡設計にはこんなのが多いです。これじゃかなり強烈なクセがでますね。吸音材も要るでしょうし、使いこなしも大変でしょう。

私の作る箱は、おおむね2007年頃からは吸音材不要になっています。検証済み。それ以前の箱については手元に無いので検証できていません。

「吸音材が要るうちは、その箱は試作品。」今の私はそういうスタンスです。


箱の材質は何でも良いか

バックロードホーンはホーン形状が命。理想的形状が完成すれば、ホーンの材質は何であっても音には関係なくなります。これは理想論。

現実には、最終的にはあれこれ楽器用材を主に試してみるわけですが、試作初期の段階では高価な材料を使うことは無駄。安い材料を使って試作を幾つも作り、とにかくホーン形状を詰めることに全力を注ぎます。

バックロードホーンの形状要素としては一般には、第一キャビ容量、スロート絞り量、ホーン広がり係数、ホーン長さの4つですが、それに加えて第一キャビ形状、折り曲げ回数と、折り曲げ箇所という要素も重要であり、またそれぞれの要素が絡み合い、なかなか簡単に最終結論が出るシロモノではありません。


と言うものの

ひとつ傾向として言えるのは、試作を繰り返してホーン形状の完成度が高くなればなるほど、軽い材料が使える。ということ。

音響変換効率100パーセントのホーン、なんて現実に出来るわけありませんから、結局少なからずホーン鳴りは残ります。そのホーン鳴りを敵にするか、あるいは味方に付けるか、ここからが箱の材質が音に関わってくる段階です。

すべての材料は、固有の音色というものを持っております。木材、金属、接着剤、塗料まで、振動すれば必ず固有の音を出します。数多ある材料の中で、どの材を使うか?最後まで頭を悩ませる問題です。

ひとつの方法としては、聴いてみて「イヤミな音を出さない」材料を選ぶ、という消極的方法。

もうひとつは、過去数百年に渡って使用され、淘汰され、生き残った材料(つまり楽器用材)を使う、という方法。これは「良い音を出す」という積極的理由で使われてきた材ですから、ホーン鳴りを味方に付けるには最適の材料である可能性が高い。

一般にスピーカーエンクロージャーには重厚な材料(比重0.7以上)が好まれますが、今回のバックロードホーンではマツ科(比重0.5)を通り越して、すでに杉(比重0.45)がベストマッチング。

ホーン形状を詰めれば、低音は材の重さで出すのではなく、ホーン形状で出すものという認識が出来てきます。

 


楽器製作仲間に、「キョービ、スプルースじゃないよ。シダー(杉)だよ。」と教えて貰った時は、半信半疑でした。

故長岡師も、エンクロージャーの重量は、スピーカーユニットの振動系重量の一万倍、というルールを作っていたくらいです。杉でエンクロージャーを作れば軽すぎてとても一万倍にはならない。

しかし物は試し、一度は試作してみる価値はあると判断し、杉で作ってみた結果、それが大当たり。

杉材エンクロージャーの中高音の繊細さ、歪み感の少なさは予想したとおりでしたが、それよりも、重厚な材で作ったエンクロージャーよりも低音がくっきり出るのには驚きました。

よくオーディオの名言に、高音を改善するにはウーファーを、低音を改良するにはツイーターを替えてみろ、と言うのがありますが、まさにそのとおり。杉材を使うことによって、予想しない音域にメリットが出たのです。

それにしても、この杉固有の音、響きは、なんと魅力的なのでしょうか。かつてこのような音は聴いたことがありません。ディットン66も、オートグラフすらも、蹴散らすだけの魔力を持っています。自己満足の極地とでも言えましょうか、私にこれ以上のエンクロージャーの改良を拒ませるだけの力が、杉にはあります。

 



Nessie-S JBL Professional 8124


JBLプロフェッショナルの12cmシーリングスピーカーを入手。汎用互換サイズのフルレンジスピーカーユニットだ。トランスを外せばインピーダンス8オームなので普通に使える。

なぜかJBLのこの機種は日本では売られていない。アメリカでもイギリスでも中国でも韓国でも売ってるのに、なぜか日本だけは売られていない。なんでやろ?買う人が居ないからか?結局イギリスのebayから輸入。2週間ほど掛かった。

さっそく我が家のNessie-Sのアルテック12cmユニットと交換した。驚いたことに低音が一クラス上の16cmNessie-Jと同等になってしまった。そして昔懐かしいJBLのあの音、元気で気品あるあの音が出るのだ。

JBLの音がオーマンディーと相性が良いのは想像できるだろうが、今まで鬼門だったフルニエのバッハが初めてまともに聴けるスピーカーに出会った。ただいまいろんな音楽をかけて楽しみながらエージング中。とにかく聴いて元気になる音だ(*^o^*)

忠実再生

忠実再生という言葉をよく耳にしますが、それはいったい何に対して忠実なのか?という問題。そりゃもちろん生音、生演奏に対してのことなのでしょう。その生音を100点として、再生音をいかにその生音に近づけるか、という話しだと思います。

問題は、その元になる生音を私たち誰も聴いていないということ。誰も聴いた事もない音、目盛の無い物差しでしかないものに対していくら忠実を叫んでみた所で、それは空論でしかない。

さらに、もしラッキーにもその生演奏の録音現場に居合わせた人が、機材や取り扱いにいろんな努力をして、元の生音と全く同じ音が出せれば100点となります。でも技術的にそれはありえない。最高でも99点、ちょっと手を抜けば90点、60点、と下がります。

元の生音を100点としてそれに対して忠実再生を追求している限り、その再生音は生音の劣化コピーでしかありません。110点、120点は絶対にあり得ません。それではオーディオは生演奏を絶対に越えられません。

忠実再生を金科玉条にするのも1つの趣味としてはありえるでしょうが、私自身の一生の趣味として、劣化コピーを作ることに心血を注ぐのはちょっと寂しい気がします。